ネタバレしかない「キフシャム国の冒険」物語の構造編

さて、続きましては物語の構造編です。どちらかというと私はこっちの演出?作り?に惹かれたなぁ。ネタ元は辿っても辿りきれないほど、私の全然足りねー知識なんかじゃ到底カバーできないだろうけど、それでも私が勝手にこじつけてほほーとなったところをメモがてら。いちおうもっかい言っとくけど!ネタバレしか!!!ないよ!!!!!!!

  • 神話としてのファンタジーとその克服について

これはもう私が気付くまでもないところではありますが。というかもうパンフレットの最初の対談の最初の方に語られちゃってます。w

荒俣:(略)例えば大きな災害が起きたとしますよね。その時に人はどう諦め、乗り越えていくのかというと、「ある化け物が大暴れし、若い女の人が自らの身を捧げたことで平和が訪れた」というフィクションを作ってしまう。

この神話としてのファンタジー、フィクションは災害時に限ったことではなく、なんなら「世界の始まり」とか、私たちが決して知り得ないものの説明として多用されて、神話として今にも残ってますね。本作は3.11きっかけという成り立ちからしてその構造をなぞっています。けれどもはや神話を「歴史」だとは信じられない現代において、神話はファンタジーになり、信仰はエンターテインメントになる。震災という現実、あるいは夫と子を喪ったという現実、あるいは一人で生きていかなければいけないという現実、様々なレイヤーでの「現実」を克服するためのファンタジーなのですね。ナオミに限った話ではなく、一人で生きていく*1とか、そういう現実は私たちにとっても乗り越えなきゃいけないもの。ナオミやイリマのためのファンタジーでもあり、やはり私たち観客のためのファンタジーでもあったのだと思います。
しかも、ファンタジーが人々の救済となるためには、別に「ファンタジーである」ことだけが重要なのではない。神話化することは目的ではなく、手段であるべきなのです。では目的とは何か?それはもう、作り上げた神話を克服することでしょう、逆説的ですが。神話を神話だと、フィクションをフィクションだと理解して克服して、現実に立ち返って現実と向き合うことこそが目的なのですな。初日後にも書いたし、パンフレットでも相当言われてますけど。
この非日常を通って現実に立ち返る、というロマンチックなリアリズムが私はとにかく大好きでねー。最後、ナオミはあまりにあっけなく現実に戻ってくる。私は現実を肯定してあげる思想や物語が大好きなので、それがとにかく好ましかったです。現実を肯定するためのものとして、非日常がちゃんと手段になっていたから。つらい現実から逃げるのではなく、ちゃんと「克服」するためにはまずちゃんと日常を見て、とりあえず肯定してあげなきゃいけないのです*2。そのための方法論としてやはり神話的なモノ、ファンタジー的なモノはとても有効なのだろう。今このタイミングで、震災がテーマの一つとなっているこの作品で、ともすれば嫌味だったり不快になりかねない「希望」をこういう形であぶり出しているのがとにかく素晴らしかった。
まぁそれはもう私が言うまでもなく「パンフ読め!」のひとことで終わるんだけどw、神話の克服という意味で面白かったのが、「見るなのタブー」*3の遵守でした。「冥界から大事なものを持ち帰る者は決して振り返ってはならない」、これはもう鶴の恩返しをはじめありとあらゆる伝承で描かれる「見るなのタブー」ですね。キフシャム観てすごいびっくりしたのは、私はこのタブーが「破られなかった」話を初めて見たからで。タブーって逆説的で、破られないと成立しないものじゃない?誰も「娘が機を織っている部屋を老夫婦が覗かなかったら」「パンドラがパンドラの箱を開けなかったら」の話を知らない。ということは、この手のタブーは破られないと伝承(や神話、あるいは道徳規範)としての効力を持たないわけですよ。なのにイリマはちゃんとこのタブーのスタンダードを克服して、振り返らずに冥界からキフシャム国へと帰っていった。そもそも冥界行って帰ってきた者は今までおらんかったわけでw、そういう意味でも「失敗するという物語の常識」を克服しているのがイリマなのだなと!!!物語の慣習に流されず、物語に打ち克つ。とにかく「現実に立ち返る」という本作のテーマはこういうとこにも表れてるのかなーと思いました。そしてそれを遂行するのはイリマ王子、「未来」の名を冠す男で。現在や過去であるところの物語を超克できるのは未来だけなんですよね。このタブーの克服、個人的には相当なカタルシスがありました。なんでダメなのに見ちゃうんだろうって地味にずっと思ってたからね…w
ここでちょっと古事記の話にそれます。古事記でもご存知イザナギイザナミのシーンにこの「見るなのタブー」がありまして、しかも黄泉の国から戻る途中っていうドンピシャなシチュエーションなんですわ。簡単に説明すると、国を産んだ夫婦のダンナ(イザナギ)が死んだ嫁(イザナミ)に会いに黄泉の国まで行くんだけど、「決して私の姿を見てはいけない」というタブーに背いてイザナギが見てしまったのはものすごい醜いイザナミの姿でした、と。そんでビビってもとの国へ帰ろうとする時に、どうやって逃げ帰るかというと生えていた桃の実3つを投げて追いかけてくる敵を撃退するんですな。あれ、桃…?という。強引すぎる自覚はあるがw、この桃の実が王子の母・マノイであるアプリコットのモチーフだったりしないのだろうか…とか…。確証なさすぎてただの妄想レベルなんだけどw、Wikipedia見たらこんなん書いてあってアーーーと思ったんですよ!私はね!

この功績により桃の実は、イザナギ命から「オオカムヅミ命」の神名を授けられる。そして、「お前が私を助けたように、葦原の中国(地上世界)のあらゆる生ある人々が、苦しみに落ち、悲しみ悩む時に助けてやってくれ。」と命じられた。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%8F%E5%AF%8C%E5%8A%A0%E7%89%9F%E8%B1%86%E7%BE%8E%E5%91%BD

男女逆転してるけど、冥界から逃げ帰るナオミと現実世界でナオミの心を安らげたあんずの花(それはマノイの生まれ変わりかもしれない)はイザナギとこのオオカムヅミにカブる気がするんだ…イマイチ確証はないから言葉尻は弱い…w
まー古事記だけじゃなくて父殺しもケルベロスもwギリシア神話ですし、やっぱり「神話的なモノ」がある程度強くモチーフになっているような気がするなあ。そうするとやっぱり、昔々に災害や天災を神の逆鱗や伝説に託した歴史と重なってくるのだよ。神話は人々の混乱を収めて現実を受け入れさせるために有効だったからこそ長い間語り継がれていたわけだけど、それがフィクションだ信じるに足らないものだと決まってしまった今、キフシャムは神話から信仰を引き抜いてエンターテインメントを加えることで、もう一度その効力を復活させようとしているような気がするんですよね。そう考えるとこの作品はものすごい偉業にチャレンジしてるよね…神話の力の復活…。末恐ろしい…。
他にも神話的モチーフってちょいちょいあるはずなんだけど、そこに言及するとまじで私が朝まで文章を打ち続けなければならんという、まさに俺はシーシュポスか!*4てな状況に陥ってしまうので割愛します…ね、眠い…(現在26:00)。

  • 「キフシャム国の冒険」はナオミの書いた物語か?

で、これね!これもまたズルいギミックですね!当たり前だけどキフシャム国の面々に思い入れを持ってしまう、つまり好きになってしまうため、やっぱり世界のどこかに、それはもうこの銀河系と地続きでないファンタジー世界でもいいからイリマたちはちゃんと「居て」ほしいよ!そりゃそうだよ!宮田担だし!w けど思い返せば、「キフシャム国」自体が「童話作家を目指していた、そのことすら忘れていた」と語るナオミの、自分自身を癒すための物語である可能性は全然あるのね。というかフラグしか立ってない状態だよねw 最初はすわ夢オチかと構えてたんだけど、こっちに誘導されるのかー!と。私が一番「あ、創作かもしんない」と思ったのはダンナが冥界で浮気を告白するとこかな…wあれクライマックスで一番「え、えっ!!!!?????」てなるところだと思うんだけど、ナオミが無意識下で夫を「忘れてもいい存在」(悪者にする、という意味で)に降格させるための設定だとしたら…って。忘れるためにはクソ野郎の方が都合が良いわけでw、そういう人間らしい一面が最後で漏れちゃったのかもね、と思った。あの時ナオミは何もかも忘れたいって泣き叫ぶんだけど、けど「忘れるべきではない(=狂う一歩手前で帰りを待ち続ける)」という盲目的で痛々しい「忘れない」の形だった頃よりも、「忘れたい」と泣き叫んでるナオミの方がずっと人間的に強かったと思うなあ。あ、それから先ほどご指摘頂いたのですが、確かにナオミを称してキフシャムの住人が言う「文字を持つケダモノ」というセリフは物語の創造にかかってるのかもしれないな、と。物語って、口承で伝わるだけだとそれは現実感の伴わない「伝説」にしかならない。事実でもフィクションでも、文字になって万人が読めるようになって初めて「歴史」に組み込まれて受け継がれるイメージっていうか…説明すんの難しいけど。起きてしまった悲劇を悲劇として、ふんわりした伝説にさせず、きちんと歴史として伝えていかなきゃいけないっていう鴻上さんのメッセージなのかなとも思いました。
けどこの作品の何がスゴいって、別にナオミの作り出したフィクションでFAです!って証拠は特にないところよね!ほのめかすだけで決定打は打たないという。w もしかしたら本当にイリマたちはいて、その生まれ変わりとして小野さんがいたり、役場のおっさんがいたりするのかもしれない。だってマノイは実際庭の木になって生まれ変わってるんだもの。こういう、観客に選択の余地を残してくれてるとこが鴻上さんの巧いとこだと思うマジでw オタクだからこうやってああだこうだ言うのがね…大好きなんですよね…。ある程度ふわっとした「正解」ありきでその周囲を観客の想像や妄想で埋められる。ここまで言っといてナンだけど私はイリマたちはちゃんと生きて、キフシャムを希望で満たしてほしいです。心から。てかあれだけアナグラムとか盛り込んでおきながら、全部ナオミのフィクションでしたはちょっとショッキングだわw「もしかしたらこの世界、私が書いた物語かも」「だったらいいですね」「え?」「だって、自分で書いた物語なら結末は自分で変えられるじゃないですか」っていうナオミとイリマの会話が意味深すぎるから一応残しとく。なんかひらめいたら書きます。w

  • 本作における時間軸の謎

あとは分からないとこをメモっとく。一番分かんないのは時間軸です。それぞれの局面で語られる時間、一瞬、永遠、しばらくの間、これが何を意味しているのか分からない…。のでこれからの課題とします。…なんだけど、どの局面で出てきたっけ、「一瞬と永遠の間」に関してはちょっと面白いものを見つけたので引用しておく。

 (略)また私の生きるべきものとして与えられたこのわずかな時間が、何がゆえに、過去から私へとつづいた全永遠と私から未来へとつづきゆくであろう全永遠のうち、この点に指定せられ他の或る点に指定せられなかったのかを知らない。私の見るのはただ、どこを見ても、ふたたび復(かえ)ることなく一瞬のあいだ生きるにすぎない一つの微粒子、一つの影のようなものとして私をとじこめている無限だけである。私の知っていることはただ私がやがて死ななければならないということである。
パスカル『パンセ』(194)新潮文庫

ちょ〜〜〜〜分かりづらいけど(だからフランスは苦手であるw)、つまり永遠と一瞬の間、それは「私(人間)」という存在である、ということですな。無限と虚無の間、幸福と悲惨の間にいる、二重性に引き裂かれる運命にある「中間者」としての「人間」。パスカルはかの有名な「人間は考える葦である」を生み出した人ですが、取るに足らない存在だからこそ、どんなに莫大なものも思考の中に包み込める、「考える」という能力に人間の尊厳を見出したわけです。これは結構核心を突いてるのではないかと思うけどどうだろ?次観る時は意識してみようと思っております、はい。あと作中でちょいちょい時間についての言及がある(「158日目の奇跡」とか「二週間」とか)んだけど、それがどう関連してくるのか分からないんだよね。最初、ナオミが夫を「5ヶ月待ってる」(=震災から5ヶ月後の8月?)なのに、最後はあんずの花が咲いたり桜が舞ったり、明らかに春なのも不思議だし。

  • その他の謎
    • パンフのビジュアルが何を意味しているのかやっぱり分からない。指輪は愛や約束、貝は女性性とか沈黙、防御とか秘密、そういうイメージを表してると思うんだけど…。抽象イメージではなく、海辺に住むナオミの見たもの、なのかもしれないなあ。波が引いたあとに残る貝と約束の残骸…。
    • キャラクター編にも書いたけど、国王は何の精霊なのかはすごい気になる。あとイリマとタチアカの鏡写しの血の繋がりはもうちょい掘ったらありそうだな〜とか。
    • あとなんかあった気がするけど忘れました…眠いです…

まだまだ言いたいことはあると思うけど、もうね、これ以上言及してたらラチが開かないし私が死ぬ!というわけで史上最長じゃないかなこの長さ…?ここまで読んでる人いる…?w 私個人の、独断の解釈にはなりますが、文字として吐き出しておきます。観劇した方がどんどん解釈を語ってくださいますように…!まだ初日から一週間経ってないなんて不思議。残りの観劇も楽しみだ!またなんか気付いたら書きにきます。ご指摘ご意見などありましたらコメントかTwitterの@overflowingdaysまでお知らせくださいまし!

*1:これは王子にとって最大の克服すべき現実でもあるわけですが

*2:例えば、当たり前だけど自分の記録を知らない人に自分の記録は超えられないでしょ

*3:参照:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A6%8B%E3%82%8B%E3%81%AA%E3%81%AE%E3%82%BF%E3%83%96%E3%83%BC

*4:参照:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%9D%E3%82%B9#.E3.82.B7.E3.83.BC.E3.82.B7.E3.83.A5.E3.83.9D.E3.82.B9.E3.81.AE.E5.B2.A9