ネタバレしかない「キフシャム国の冒険」キャラクター編

「キフシャム国の冒険」観劇2回目に行ってきました。いやーーーちょっとこの作品やっぱすごい。初めて観た初日の印象とこうも変わるか!?という。端的に言うと、ストーリーとかメタファー、作品の底の流れる思想、みたいなものに2回目でようやくちゃんと目を向けられる気がして。初日はちょっと宮田が出てきた瞬間に私の感無量スイッチがビンビンに入ってしまってそれどころではなかったwwww
ということで、まだまだ見逃してる伏線も山ほどあるとは思いつつ、先日よりバリバリネタバレに踏み込んだエントリを残しておく。マジで核心のところを書いていくつもりなのでこれから観劇予定の方は絶対に見ないでくださいね!(←伏線。嘘)
真面目な話、この作品はまず先入観なく観て、そして観たあとに考えるべきものだと思うので。細かいレトリックに気付けなくても十分面白く、意味のある舞台になってるとこが鴻上さんスゴいんだよ!バカなジャニヲタが観る前提の作りになっててスゴい。w けどそこに観れば観るほど新たな発見がある超多重構造の意義を仕込んでるんだろうなーと。恐れ入りました。これ10回くらい観て、さらに台本読み込むくらいのことしないと全部の伏線は回収できないだろうな…w
そんなわけで下記ものすごい勢いでネタバレな上に、ネタバレの一つ上の段階であるところの「超個人的な解釈」が入りまくりますのでご了承。というか「私はこの作品をこの角度から切り取るのが一番好きです」という表明なんだがな!「私はあのシーンはこう観ました」という話があればどんどん教えてください。そうやって私は私のキフシャム世界観を広げていきたい。
まだ本題の1にも入ってないんだけど、早くも風呂敷広げすぎてわけわからんな未来が見える…w 正直私もまだきちんとした論旨ができてるわけじゃないので、まぁこれを読んでくだすってる「貴方の」物語を紐解くきっかけの一つにでもなれれば。
さて、上にも書いたように、本作は「素敵な娯楽作品」として成立しつつも、切り口によっていかようにも解釈できる多重構造の作品です。だので、今回は表層のエンタメ性は置いといて、私が汲み取れた切り口と私が好きな切り口の話を主にすることになると思う…

  • アナグラムに見るキャラクターたち(そして3.11の物語としての「キフシャム国の冒険」)

まずは触れないわけにはいかないこの話。当初より「3.11を機に制作された」と公表されていたこの作品、前回のエントリでも言ったようにその触れ方の不快感のなさに驚いたものですが、なんだろうね、やっぱりお涙ちょうだいとか死んじゃって可哀想とか生きるために頑張ってとか、そういうひどく上っ面の部分ではなく、根本的に哀しいとは何か、生きるとは死ぬとは何か、そしてその現実を受け止めるには…という荘厳な部分が優しく温かく丁寧に切り取られていたからなんだろうね。この震災関連のメタファーとしては、やはり固有名詞に込められたアナグラムが最も分かりやすいのではないでしょうか。そちらの部分に関しては、なみこさんがブログにまとめられていたのが超超素晴らしかったのでリンク貼らせて頂きます!他の細かい部分もまとまっててスゴいのでご一読あれ。
http://yaplog.jp/nammytn/archive/4
わたくし実は相当ボンクラなのでアナグラムとか絶対分からんのですわ…私はオタクのこういう類の探究心をあまねく愛してるのだ…!
さて、あらためて上記の記事内のアナグラム部分を引用させて頂きます。

・キフシャム(※精霊と魔法の国)
Kifushamu → Fukushima(福島)
・テプガンズ(※キフシャム国を闇で飲み込もうとしている国)
Tepugans → Genpatsu(原発

・イリマ(※王子/メタセコイア=杉の精霊)
Irima → Mirai(未来)
・トコフ(※従者/タヌキの精霊)
Tokohu → Tohoku(東北)
・タチアカ(※王子の異母兄/沼の精霊)
Tatiaka → Tatakai(戦い)
・ハシモリ(※王子の父にしてキフシャム国王/?)
Hashimori → Hiroshima(広島)
・カシハブ(※博士/キノコの精霊)
Kashihabu → Hibakusha(被曝者)
・ミスタン(※従者?/キツネの精霊)
Misutan → Tsunami津波

いやあもうこれを加味するだけで相当鳥肌モンですよこの作品。福島を襲い闇に包もうとしている原発、って時点で絶句することしかできず。未来を信じていなかった東北が最後は未来の最良のパートナーとなったり、原発の闇の中で未来の帰りを一人でずっと待っていた被爆者、とか。そして呪いのように「忘れるな」と語りかけてくる広島、その存在は忘れようとすればするほど忘れられない呪術でしかない。これに関しては、どうのこうの言うよりもこのアナグラムありきで反芻するのが一番胸に迫ると思うので、何も言えません。私はこういったことについて語るのがすごく苦手なこともあって。
もちろん震災をモチーフにしたギミックはこれだけではなくて、一番胸を締め付けられてなおかつ好きでたまらないのはクライマックスの水ブワーのシーンですね。初めて観た時は「紀伊國屋こんなことできるんだ!」ってビックリして気付けなかったんだけど、あのおびただしいほどの水量を誇る雨は明らかに津波のメタファーでしょう。しかもそれは全て(の記憶)を流し去ってしまう「忘れ川の水」で。大混乱の中でとてつもない水が降ってくる、手を伸ばせない水壁の向こうには王やナオミの夫たち「死んだ者」がいる。そして死の中から「走れ!逃げろ!」と口々に叫ぶ声に突き動かされて、「生きるべき人々」である王子とナオミとトコフは振り返って立ち止まることなく(「立ち止まったら呑まれてしまう」!)生きる者たちの世界へと戻っていくのです。ざあっと煩い水の音も、大きな水音に紛れて聞こえづらい死者の声も、水浸しになりながら走って飛び出してくる3人も、そのまんま表現しただけの演出だったなんて…とこれまた絶句した次第であります。けどあそこ本当に胸に迫る大好きなシーンなんだよなあ。積み重ねてきた3人の成長(と言ってもいいのかどうか…ここでは「現実を受け入れる力」を「成長」と定義したい)があそこで一気に爆発する、本作に仕込まれたカタルシスのキモですし。死んだ人間が生きている者を生きるべきだとして、「俺は全てを忘れる、お前は生きろ」っていう、このダンナの自分勝手甚だしい論旨が嫌いになれない。私はこういう「人間」らしい自分勝手を愛してるからねえ。さらに穿ってみると、あの場違いなワガママは生き残った者が生きていくために後付けで仕込んだゆえの論旨の破綻なのかもしれないじゃない?そう考えるともう、取り残されてしまった人間のなんといじらしいことか。ここで引っかかる「さて、ではキフシャム国での冒険は、誰の誰による誰のための物語でしょうか」という部分は後述します。あれ、これ全部書ききれるのか…!?この時点でこの長さどういうこと…!?

  • モチーフに見るキャラクターたちの話

アナグラム話とカブるとこもあるとこですが、深読みのレイヤーとしてキフシャム国の住人が何かの精霊だっつーのも良いギミックだった。ここでも鳥肌第1位は俄然「被爆者」の名前を冠した博士がキノコの精霊だったというとこだけどね…ああもうダメ書きながら鳥肌止まらん。しかも博士は博識で、イリマたちに過去を教えてくれる「歴史」の象徴でもある。それは「広島」であるところの国王も同じ。精霊モチーフ、という切り口で国王と対になるのはきっとあの博士だったのでしょう。こういうとこがこの作品のアイロニカルなところでな…。ちょっと探ると切っ先の鋭い風刺や皮肉もどんどん出てくる。はー…。それにしても国王が何の精霊だったのかが分からなくて。これって作品中で言及されてる?覚えてないってことはあえて言及されてなかったような気もする。そして国王は、いったい何の象徴だったのか。これだいぶ核心な気がする…。私は何かという具体的なモノじゃなくて、脅威や恐怖そのものの象徴なんじゃないかなぁなんてぼんやり思ったりもしていますが、果たして。
で、対になるといえば、あとは王子(杉)とタチアカ(沼)、そしてトコフ(タヌキ)とミスタン(キツネ)でしょう!ここからは完全なるイメージ、というか私の超個人的解釈の話に突き進んでしまうんだけどw、杉のイメージといえばどこまでも高く、まっすぐに伸びていくもの。*1対して沼といえば、「底なし沼」とか言うように、一度はまってしまえばどこまでも下へ下へ引きずられるものの象徴なのではないでしょうか。正反対ではなく、表と裏としての王子とタチアカ。そのやり方は真逆だけれど、真逆だからこそ根本が同じだということが滲み出てしまう…というか。私はタチアカは「そう在ったかもしれない王子の姿」かもなぁと思っております。だから最後も、無様な退場ではあったけれど死なないでくれて嬉しかった。彼がアンチテーゼという形で王子の一部であり片割れであるとしたら、あの世界からいなくなってはいけないでしょ。この先に改心しない未来がないわけじゃないしね。この作品はラストシーンが本当の意味での「始まり」――「再生」にも似た始まりで終わるところが本当に素晴らしいんだよなぁ。さあその先はどうなるんだろう、彼らはどうなるんだろうって思える、この期待感こそが希望や未来に他ならないのでしょう。やべえ話がそれた。
そしてトコフと(タヌキ)ミスタン(キツネ)なー。これ結構難しいんだよ、特にミスタンが。タヌキとキツネといえば、赤いきつね緑のたぬきの例を出すまでもなくwイメージとしては正反対よね。愚鈍と狡猾、化けるものと化かすもの、などなど。ちょっとこれ確証が持てないんだけど、ミスタンは王子を裏切ったのだろうか。タチアカに殺されて冥界に来たら王子と国王がいて、国王の方に掌を返したって解釈で?いいのかな?そう考えると、最初は王子に疑いを抱いていたトコフが最後は心から信じるようになる、っていうのは誠実(愚鈍の裏返しとしての)の証明だよなぁ、とか。平成狸合戦ぽんぽこを見ていないのでw、タヌキに関しては何も知らんのですけどね。トコフは相当重要なキャラクターだからもっともっといろいろな意味を背負っていそうなのだけどなぁ、私のリソース不足です。反省。遠回りな連想ではタヌキ→金玉(下品で失礼w)→金→黄金→黄金の国→平泉→東北…と綺麗に繋がるんだけど、本作で関連性があるかは謎ですw
そしてようやく触れられる、マノイ(王子の母)と対になるのはもちろんナオミですな。Manoi→Naomi(逆か?)ということで。揺れ惑ったかと思いきや突然真理を突く強い言葉を放ったり、誰を相手にするかで全く違う顔が見える。善き母にも狂った女にも見える、この二人(マノイ人間じゃないけど…)のことは本当に難しいです。分からないのでそんなに言及もしません。w ただこの物語上「女」の性を持つ者がナオミとマノイしかいない、っていうのはなんかこう、意味がありそうですね。さっきからこれしか言ってないけど…w ナオミ/マノイの解釈については今後の課題です。けれどマノイがアプリコットの精で、ナオミの家の庭に(気付かないけれどずっと杏の木があり)ラストシーンで「いつの間にか」花が咲いていた、というのは明らかに何かの暗示でしょうなあ。生まれ変わりか偶然かはたまた。まだまだ分からないことだらけです。

………やっと……キャラクター編が終わった…いや終わってねーけど…ここからが本番やで…!正直今まさにエントリ分けた方がええんちゃうん、明日書いてもええんちゃうん、ていう悪魔の声が響いてるけど…頑張る…!
けどどう考えてもアホほど長すぎるのでエントリは分けますね。次は世界観というか、物語の構造編です!

*1:どうでもいい話をすると、杉並区在住なので小中学校の校歌に杉がよく出てきた。w やっぱりそこでも「すくすく育つ」象徴なんですね