現実とファンタジーの正反合/『キフシャム国の冒険』初日雑感

初日おめでとうございます!『キフシャム国の冒険』初日初回を観劇して参りました。宮田のタレント人生のエポックメイキングとなる瞬間に立ち会えて本望です。なんという経験!それは宮田にとっても、一ファンでしかない私にとっても。作品そのものの余韻はもちろん、この仕事に宮田が軸として携わっている、ということに打ち震えて茫然とした魂がまだ帰ってこない。以下ネタバレを大いに含む雑感。
鴻上さんの作品を観たことがなく、また観劇そのものの経験値も少なかったので、「ファンタジー」「震災」というキーワードから勝手に連想して、私個人の嗜好や思想と相容れなくてもそれなりに咀嚼して受け入れようと思っていた。が!そこはやはり鴻上さんの底力というかなんというか、すっごく素敵な娯楽作品に仕上がっていてビックリしました。もちろん深いところは深く、いくらでも深読みして哲学に結び付けられるところはあった。けど表層としてはワクワクしてほろりとさせられるエンターテインメントなんだよね。おそらくこういう「観やすい」作りも鴻上さんの意図されたものだと思うのですが。恐れ入りました。
ストーリーが進むにつれて正直「またエディプスコンプレックスかい!」とは思ったもののwまぁそれは「マンネリ」ではなく「お約束」の範疇で。何が心地良かったって、ファンタジーなのにすごくあっさり「現実」に立ち返るところが良かった。ファンタジーではあるものの、それは「現実」を際立たせるアンチテーゼとしての「ファンタジー」に過ぎなかったんだなー。またその現実も、震災の話はひとまず置いといて「愛する人の受け入れがたい死を受け入れること、そして自らが生きること」という普遍的なものだったとこもグッときた。道徳的ではあるけれど独善的ではないメッセージ性のバランス感覚がお見事でした。全然押し付けがましくないし、むしろ驚くほどコメディパートが多いから生死の道徳に言及するところが切なく際立つんだよね。冒頭でナオミさんの夫の部下(宮田が一人二役)が言う「死ぬ理由は些細なものであってはいけない」(ニュアンスですが)とか、冥界で夫がナオミに言う「お前には未来がある、生きなきゃいけない」とか、激情に基づいた生死観はすごくワガママでとても妥当とは思えないんだけど、でもその本人にとってはどんな崇高な倫理哲学よりも正しい。これは私たちも、理性ではなく本能の部分で共感できるのではないかと思われます。登場人物はみんな苦悩するしワガママだけど、それを無暗に否定しないところが良かったなー、説明しづらいけど。やはりそういう意味で根底のテーマは「向き合うこと」なのだと思う。自分と向き合うことでもあり、現実と向き合うことでもあり。今作に限ってはファンタジーだからこそ描き得たテーマなのだろうなあ。非現実でないと現実は意識できない。宮田への思い入れでちゃんと細かいところまで把握できなかったからきっと言葉も解釈も足りんだろうけど…。散りばめられたテーマの欠片を次観る時は拾っていきたい。
演出面ではもう、演劇ってスゴい!のひとことでございます。キャストが一人何役もやるとこがそもそも新鮮で面白かったし、冒険の道中を人形劇にしたりアニメにしたり、そういう試みに感心してしまった。母が浄瑠璃人形なとこも、「そうくるか…!」と思って。あれは生きているもの・死んでいるものの境目が曖昧になるギミックで好きだったなぁ。大きな仕掛けや大道具がなくったって「飽きさせない」作品は作れるんだな、と。ジャニーズの仰々しい舞台を見慣れてるから余計に。w 2時間ぶっ続けでも飽きず、あっという間に感じられたのはそういう演出の妙が大きいと思う。終盤、具体的な「忘れの川」(だっけ)から何か抽象的な感情を表すような雨へと広がっていく水の演出とか、桜の花びらがわあっと吹き出す演出とか、今まで「物語」として具体的に見えていたものが抽象化されて何か物語以上の概念を描き出しているように見える、引き込まれる演出もすごく「演劇観てます!」って感じで楽しかった。私は具体的な物語をなぞるだけの物語にあまり惹かれないから余計に。セリフ一つ取ってもその言葉が意味する以上の意義があったりして、気の抜けない作品でした。生で舞台を観るっていう脳みその使い方楽しいね!楽しみながらも必死に追いつこうと考える、その苦労が気持ちよかったなー。紀伊國屋ホールの「ザ・演劇」な雰囲気もワクワクしたし。何事も本質に少し難解でとっつきづらいところがあるくらいの方が私は好きだ。
さて、そして宮田の話です。いやーーーちょっとこれもう、私この瞬間のために宮田担になったのかもしれない、って思うほど、思うことがありすぎる2時間で。正直ちょっと心配だった、いきなりの主演舞台が驚くほどガチンコな土壌のものだから。けど始まって宮田が出てきて、高岡さんをはじめとした役者勢と同じ板の地平線にいても全く違和感を感じなくて、そのことに気付いた瞬間まーーー泣いたよねw「声を張る以外の演技を…覚えて…ほしいな…!」と思ってしまう、そんな宮田はもうおらんのだ!宮田が全く宮田自身と正反対の、一つも共通点もない役を今回のようなクオリティでやれるかどうかは分からん。ただ、この王子に限ってはすごくよく考えて、演技の「技術」を学んで挑んでるんだなってことが伝わってくるほど、めっちゃめちゃ良かったです!宮田が主演に起用された理由が作品の中で見えてきたのがホント胸熱で。特に感じたのは国王とのシーンかなぁ。「母が死んだとしても泣くな、笑え」って父の国王から言われて育てられてきた気弱な王子の役なんだけど、宮田のあの見ようによっちゃエモいw頼りない笑顔がピッタリそのまま王子と重なるのよ!あの瞬間に「あ、これはハマり役だ」と直感してまた泣いた。w 鴻上さんはどの程度まで宮田のキャラクターを見込んであのキャラクターを書いてくれたのだろう。宮田がそのままあの王子だとは思わないけどw宮田が魂を借りて演じるには最高のキャラクターだったと思います。弱さを、幼さを断ち切ってあっさりと現実(冥界→キフシャム国という意味で)に戻るところが逆に深みがあって好きでした。過剰に教科書的なことを言わないとこもね。やはり王子のキャラクターのテーマも断ち切ることや現実と向き合うことなのだろうなぁ。そして演技やキャラクター的なところだけでなく、踊り(ジャニーズの矜持!って感じで超かっこいいw)も王子の真摯なキャラクターが表れている殺陣も、何より発声が素晴らしかった!!!もともとええ声なのは知ってたけど、ただ張り上げるだけじゃない発声を身につけたことは、宮田の大いなる財産になることでしょう。セリフ回しもまったく違和感を感じなかったし、まさに宮田が独り立ちする瞬間を見てしまった、という感慨で胸がいっぱいです。まさかこんなに成長してるとは思わなかった。成長するとは信じてたけど、初日の段階でここまでのものになってるとは思いませんでした。ごめんね宮田。彼の真摯な努力が実を結ぶ瞬間が訪れて本当に良かった。常々キスマイは総じて「本物」に周囲を固められた環境に放り込まれると、まるで周りに擬態するように本当に成長していくな!と思ってんだけどw、宮田に関してもそうで。今この本物だらけの環境に身を置ける機会があって良かった。その環境を無駄にせず、着実に成長を遂げる努力の才能を宮田が持っていて本当に良かった。宮田俊哉というタレントの転機の一つであることは間違いなくて、私は10年後も20年後もこの公演、作品のことをきっと忘れないと思う。し、宮田にとってもそうであってほしいな〜。
その他の印象的なことはもちろん無駄様こと伊礼彼方さんである。正直顔が好きです。顔が好きです!!!!!そしてハッとするスタイルも好きです!!!何より演技をしていても滲み出てくるそこはかとない残念オーラが大好きです!!!!!!そもそも基本キャラの衣装と髪型が二次ヲタ心をくすぐる格ゲー的なそれでたまらんかったのですが、その後のコミカルの域を越えたやりきりっぷりと、それこそ無駄な歌唱力!!wwww「なるほど…これが無駄様…ッ!」と膝ポンの連発でござんした。あいつ…(妻子持ちを隠してたらしいけど)絶対いいやつだぜ…!
結論としては、もうほんとこれ以上ないくらい素晴らしい舞台でした、という。無駄なものも足りないものもない。シナリオのテンポもちょうど良かった(全然ダレないのがスゴい!)し、前述のテーマが押し付けがましくないとこも逆にグッときたし、ぱっと見で惹きつけられる華やかなアクションもほろりとさせられるヒューマニズムも、回を重ねるたびにハッとしそうな深みもあって。その中心に宮田がいるなんてまだ信じられない。しかも何の遜色もなく、初々しい座長としてそこに収まっている。色々言ったけど、本当に「楽しい」舞台でした。ひとことで言うとそれなんだよなぁ。で、「ひとことで言うと楽しい」ってとこに帰結するカジュアルさがすごく心地よくて好きな作品でした。そんなに数は観ないんだけど、また新しい発見ができるといいな。そして千秋楽を迎えた頃、宮田はいったい何を思い、どんなタレント・俳優・アイドルになっているのか。こんなに素敵なマイルストーン的作品に、観客・ファンという立場で参加できたことを嬉しく思います。怪我や体調に気を付けて最後まで走り抜けて!カンパニーの皆さん、鴻上さん、引き続きよろしくお願いします。これからの公演もすごく楽しみだ!